「信頼する信頼」に関する考察(1984)[pdf]
本論文では、プログラミングの根本的な問題として「信頼の連鎖」を取り上げ、コンパイラ自身が生成するコードに悪意のあるコードを埋め込む「トロイの木馬型コンパイラ」の可能性を提示する。著者は、完全に信頼できるソフトウェアを構築することの難しさを指摘し、信頼の基盤そのものを問い直す重要な警鐘を鳴らしている。
背景メモ
ケン・トンプソンが1984年にACMチューリング賞受賞講演で発表した古典的論文。当時、UNIXオペレーティングシステムとC言語の共同開発者として知られていたトンプソンは、ある衝撃的な可能性を指摘した。コンパイラ(ソースコードを実行可能ファイルに変換するプログラム)に「トロイの木馬」を仕込めば、そのコンパイラで再コンパイルされたログインプログラムなどに意図的に脆弱性を埋め込める。しかも、コンパイラのソースコードからその悪質なコードを削除しても、あらかじめ仕込まれた「自己複製するバックドア」が次回のコンパイル時に再生成するため、痕跡が消える。つまり「コンパイラ自体を信用するな」という教訓。発表後40年近く経った今でも、サプライチェーン攻撃やサプライチェーンセキュリティの原型的警告として引用され続けている。